床屋選びは難しい 〜魅惑のカットから眼球押し込みまで〜
髪型がいい感じにならない。
かつて僕は美容院に行くことに恥じらいを感じていた。
恥じらいと言うとおおげさだが、確実に照れの感情があった。
しかも30歳過ぎくらいまで。
それまでずっと床屋派だったのだ。
小学生の4年生くらいまでは母にバリカンで丸坊主にしてもらっていたが、高学年になると次第に色気づき、前髪を所望しだす。父親に連れられ床屋デビュー。
そう、スポーツ刈りである。
それから中学生の間はもっぱらスポーツ刈りであった。しかしあまのじゃくな性格の僕は、その髪型にも個性を求めた。ジェルやワックスで髪型をキメることに照れゆえの抵抗をおぼえていたので、前髪と頭頂部の髪は残しつつ、側頭部および後頭部を1枚刈りにまで刈りあげたのだ。ソフトウド鈴木。
あの時ばかりは「キマった…」と思った。
女子が僕の方をチラチラ見ている気がする。バレンタインデーにはチョコを貰える気がする(中学通算実績:0個)。
実績が物語るように女子には全くキマっていなかったが、同級生男子が側頭部1枚刈りを真似しだしたのだ。もちろんみんなそんなことは言わなかったが、急に横の髪の毛を1枚刈りに刈り上げだすんだもん。
中学時代の『横っちょ1枚刈りヘアー』ムーブメントの発端は僕だと確信している。
たぶん。
しかし大人気のその髪形にも弱点があった。元々硬い髪質の僕は、横の毛が少し伸びてきても下にさがらずに真横に伸びようとするのである。
ムクムクと伸びた髪の毛はまさに亀頭のごとく、あの形を造り上げるのであった。当時、その様子を友人はこう呼んだ。
チ○ポカット
その呼称に思春期真っ只中の自尊心はひどく傷つけられ、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。しかし同時に、その言葉が放つユーモアと語呂の良さ、シルエットの既視感に妙に納得した部分もあった。
○ンポカット
いくつもの感情が入り交じる魔法のコトバ
チン○カット
人を傷つけすぎない程度に
チンポ○ット
さあ、みんなで一緒に
チンポカ○ト
アソシエイト申請絶望的
チンポカッ○
人間シンボルモニュメント
歩くセックスマシーン
etcetc…
だめだ。また下ネタばかりになってしまった。駄文を限界までうすめた10倍粥ブログのくせに、性こりもなく卑猥な言葉を幾度となく投下してすみませんでした。
愛すべき読者様に陳謝。
チンシャ。
ということで中学時代は『横っちょ1枚刈りスポーツ刈り』で乗り切る。
高校時代は松本人志の影響で丸坊主に。小学生低学年以来のカムバック坊主リターンズである。
以前は自宅で刈ってもらっていたにも関わらず、リターンズの時はその発想がなく、中学生から引き続き床屋で丸坊主にしてもらっていた。
その値段なんと2500円也。
高すぎる。どう考えても高すぎる。僕は理容店にしろ美容院にしろ、散髪代は髪を切ってもらったあとの姿、すなわち作品に対する料金だと考えている。なのに5mmしか残っていないイガグリ頭にこの料金は高すぎる。絶対に2500円分の髪の毛はそこにはない。
当時決して裕福ではなかった我が家にとって、2500円払って丸坊主にしてくる息子を両親はどう思っただろうか。自分がもし親の立場だったら、そんな無駄遣いに怒り心頭し、正座させたまま小一時間説教して、罰として丸刈りにしているところだ。
ということで高校時代は『高級丸坊主』で過ごした。卒業手前でなんだか恥ずかしくなってきて普通の短髪に戻す。
そして高校を卒業するぐらいでカリスマ美容師ブームが到来する。男が髪を切るために美容院を使うようになったのもこの頃だ。しかし僕は冒頭にもあるように、照れやあまのじゃくな性格から断固として床屋を利用した。
しかしオジサンが経営する床屋では思うような髪型にはならなかった。「短くしてほしい」というと大抵は板前のような髪型になるのだ。オジサンとは『短くていい感じの髪型』のビジョンが共有できない。
そこで考えたのが、若い人に切ってもらうということだった。センスが若ければ板前にもなりにくく、今風でいい感じの髪型になるハズだ。
この予想はおおかた的中しており、ラッシャイ板前ヘアーを回避することに見事成功。
こうして床屋選びに一つの答えを導き出した僕は、自宅近くの若い人が経営するお店の常連客になったのは言うまでもない。
ところが安心したのもつかの間、またもや別の落とし穴が待ち構えているのであった。
その床屋の店長が毎回尋ねてくるのだ。
「後ろウルフ気味に残す?」
後ろ髪?ウルフ?どんな髪型?
…店長は昔やんちゃしてたっぽいし……
となると、あれか?後ろ髪だけチョロっと伸ばすあれか?ジャンボ尾崎か?ジャンボか?ジャンボカットか?
ヤバい
この年であの髪型はヤバい
大人でその髪型してるの世界でジャンボ尾崎ただ一人じゃないのか?
ヤバい
絶対いやである。
無知ゆえのピュアな偏見と先入観で『ウルフ=ジャンボ』になっていた僕は、尋ねられるたびに丁重にお断りしていた。
「あ、ふ、ふつうでいいです」
しかも落とし穴はこの一つだけではなかった。
ある時、顔剃りを新人さんにしてもらう事になったのだ。特に新人と紹介されたわけでもなかったが、初めて見る顔と、若そうな雰囲気からそう感じたのだった。
そして、またもやちょっと前までやんちゃしてましたオーラを身にまとっていた。
少し不安に感じたが顔剃りを断るわけもなく、普段の流れに身を任せた。
「眉毛整えておきましょうか?」
「はい、お願いします」
新人さんの顔剃りはとてもパワフルだった。経験が浅いため力加減があまりわからなかったのか、眉剃りのときは閉じたまぶたの上から眼球をグーンと押しこまれ、破裂するかと思った。ヒゲ剃りも力強く、ジョリジョリすごかった。顔の肉が削ぎ取られるのではないかと心配した。しかし、パワープレイに若干とまどいながらも、特に流血することもなく散髪を終えたのだった。
そして家に帰り、ふと鏡を見たときに自分の顔に違和感をおぼえたのである。
何かいつもと雰囲気が違う…
いつもと髪型の注文は変わらないし…
ウルフ気味は断ったし……
はっ!!
眉毛が違う!!
細っ!!見たことないぐらいに細っ!!
これヤンキーやん!!ヤンキーの眉毛やん!!
めっちゃ反抗的やん!!
この年でめっちゃ反抗的やん!!
ということで、新人さんに眉毛を任せたら極細オラオラヤンキー眉毛になってしまいました。もちろん、眉毛が生えてくるまではオラオラフェイスで過ごしたのは言うまでもない…
というのが30過ぎまでの話。
今は引越しを機に、近くにある1000円カットの美容院を利用している。
オッサンになってしまえば照れは無用だ。
ウルフは注文していない。
長々となんの話かって?
昔やんちゃしてそうな床屋さんに眉剃りしてもらうときは気をつけてね
という話。
あ、ちなみにウルフはこんな感じ。ジャンボカットの正式名称は『マレット』です。
ウルフ(正解)
マレット(間違い)